第3章 バーボン
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帰りの車の中、私の家に向かう景色を眺める。
安室透……いや、降谷零が見せたあの顔はやっぱり一瞬で消えていった。
組織と関わる私に警察としての姿を見せるのは、たとえ無意識でも抵抗が生まれるんだろう。
降谷零を引きずり出すのは、相当大変かもしれない。
そう考えたら結局、さっきまで接していたのだって「安室」であって本当の姿じゃない。
バーボンでも安室でもなくって言ったのに。
……安室の姿の時に人前で被ってた皮を脱いだだけじゃん。
もはや何フェイスだよ、腹が立つ。
「僕、貴女に聞きたいことがあるんですよ」
途端にそう言ったバーボンだけど、私としては予測してた。
大事な話をする時に目がわかりやすいのもそうだけど、去り際にばかりそういう話を残すのは彼の癖だったから。
たぶん私を家に招いたのも、本当は今から聞くことを話したかったんだろうな。
「どうして僕に教えてくれたんです?」
……やっぱり、そんなことか。
確かにまだ聞かれてなかったね。バーボンとしては、凄く気になることだと思う。
でもそれは教えられない。
「さあね…」
「残念。教えてもらえないんですね」
答えてしまえば昨日教えなかったライを生かした答えに繋がってしまう。それじゃつまらない。
体を求めているって知られた相手とするのもきっと、快感が減ってしまうだろうから。
……今は秘密だ。
家に到着し、すぐに車から降りる。
生憎バーボンには去り際に残す言葉もなく、早々と背を向けた。
車窓の開く音が聞こえる。
振り返った先には、こちらをじっと見つめるバーボン。
「詩音 さん、僕はあなたを信用してもいいということですか?」
「……」
信用……か。
私の予想にもし見合わなかったら、次は庇うことなんてしないけれど。
「“今回は”信じて」
「……了解」
車窓が閉まっていくのと同時に私も背を向けて、家の中へと入る。
去っていくバーボンの車の音を聞きながら気づけば私は呟いていた。
……悪くない。