第3章 バーボン
ゆっくりと口元に運べば、じんわりと甘い味が口の中に広がる。
しかも入れたてなのに凄く飲みやすい温度だ。
バーボンのコーヒー、めちゃくちゃ美味しい。
「貴女、何かを口にした時は凄く顔に出るんですね」
「……?」
緩んでいたらしい顔を引き締めて見せると、逆にそれを見てバーボンは笑った。
裏がないのがわかる、凄い新鮮な顔だ。……子供相手に笑ってるみたいで憎ったらしいけど。
「笑わないで。あんたに笑われると、腹が立つ……」
「結構ですよ。僕も貴女の言動に常日頃から腹を立ててますから」
いい仕返しだ、とバーボンが言う。
バーボンはブラックコーヒーを啜りながら、まだ本題を切り出すタイミングじゃないと考えてか、関係の無い話題を切り出し始めた。
「よくモテるんですよ、安室透って。だから今日みたいな真似は貴女の為にもしない方がいい」
「ああ、JKのジェラシー凄かったね。顔だけはいいから」
「顔だけ」
「ははっ、事実でしょ?」
腑に落ちない様子で眉を顰めるバーボンに素で笑いが零れた。そういうところも気にするんだ。
潜入なんてしてるから、組織以外ではゆっくり休めればそれでいいみたいな所があるのかと思ってたけど。
バーボンのいい所か。
「でもコーヒー入れるのは上手いんじゃない?」
「褒めてくれるんですね、意外だ」
「今日見つけたアンタの唯一褒めれるところだから、コレ」
「厳しいな」
それに、バーボンじゃないだけで結構話しやすい。
いい所ってわけじゃないけれど、普段より全然人間らしいと思う。
今も話しているだけで、バーボンはいつもより自然な表情を見せてくれていた。