第3章 バーボン
「どうぞ、狭いですが」
扉を開いてすぐに、靴が五足ほどしか並ばないだろう玄関。
淡い青色のマットレスには意外にも、白色の可愛らしい猫のシルエットが描かれていた。
バーボンは自分用のブラウンのスリッパを履いて、私に客用の黄緑の細い横線の入ったスリッパを差し出す。
それにしても玄関から下品じゃないいい香り……。
さすがこの男の部屋ってところか。
入口のすぐ近くに、お風呂やトイレと思わしき二つの扉がある。そのすぐ近くには台所、奥には八畳ほどのそこまで狭くはないスペースがあった。
ベッドやクローゼット、テレビにテーブル……。
本当、ごく普通の一般人が暮らすのと同じような部屋だ。
この広さでスリッパを履くと、ホテルなんかを思い出すな。さりげなく視線を落とせば、ピカピカに光るフローリング。
本当にホテルか……。掃除がめちゃくちゃ行き届いてる。
「適当に座っててください。コーヒーでも入れますから」
「砂糖とミルク入れてね、甘めがいい」
「はいはい」
パソコンの置かれたデスクの前にしか椅子がなくて、ベッドの縁に腰掛ける。
ふかふかのマットが敷いてあるけど、床に座ると後で腰とか痛くなりそうだし。
それに、パソコンの近くだとバーボンが怪しむだろうから。
「コーヒー、入りましたよ」
アプリをしていたスマホを私の手から抜き取るバーボン。
世話焼きな母親かと突っ込みを脳内で入れつつ、大人しく従ってコーヒーの入ったカップを手に取った。
あったか……。