第3章 バーボン
後部座席に乗り込む時、一瞬ミラー越しにバーボンと目が合う。
長いまつ毛から覗く青い瞳に、いつもは見えない獰猛さが鋭く光る。
バーボンではない、本来の顔に不覚にも固まってしまった。
それを隠すようにすぐに目をそらす。
普通にカッコよくて困る……。
私って結局、怒ってるぐらい無口でクールな顔つきの方が好みなのか実は。
「安室透としての家に向かうので、何も気になさらなくて結構ですから」
ああ、それは組織がバーボンを監視してる可能性を無視していいってことか。
結局安室の家に行くのが、お互い気を遣う所がなくて一番楽かもしれない。
薄らと目を開けて車窓越しの町並みを眺める。
「10分ほどかかりますので。寝たければ寝ても構いませんよ」
「うん…寝る」
今日ほんと寝てばかりだな……。
そう思いながら、眠りに落ちるのにそう時間はかからなかった。
ーーーー
扉が開く音と車内に明かりがつく眩しさで目を覚ました。
中途半端に寝ると、起きる瞬間がめちゃくちゃ眠い。もはや、このまま送り返して欲しいんだけど……。
もう一度目を閉じようとすると、次は私の横の扉が開く。
涼しい風が車内に入り込んで眠気も少しずつ冷めていきそう。
「寝ないでください。着きましたよ」
「えー…寝たい。帰る」
「ワガママ言うな」
しぶしぶ車から降りると、そこはアパートに備え付けの駐車場だった。
20代独身の、探偵兼アルバイターならアパート暮らしが妥当か。
たぶん本当はお金持ちだろうから、本来の家は相当高級なマンションか都内に一軒家とかじゃないかな。
バーボンの後についてアパートの階段を登る。
ここに住んでる人は、まさか犯罪組織に潜入してる公安の人間が同じところに住んでるなんて思いもしないだろうな。
私も当人ではないけど、ちょっと不思議な感覚だ。