第1章 彼女を2度愛したA
『あっ起きた?』
目が覚めると風呂上がりであろうパジャマ姿の子規さんが顔を覗きこむ。
「あれ…僕確か麦茶を飲んでてそれで…」
『うん、実は敦くんが飲んだの私の梅酒のロックなの
パッと見じゃわからないよね…ごめんね』
顔から火が出そうだ、要は酔って倒れるなんて情けない姿を見られたわけだ。
それに今気づいたが自分は今布団のなかに入ってる。
どう考えても一人暮らしの彼女のものだ。
「迷惑かけてごめんなさい…帰ります…」
布団から出ようとしても体が思うように動かない。
『今日は泊まっていきな、私はソファで寝るから』
「でもそれだと子規さんが…」
『でもはダーメ!ちゃんと寝て大人しくするの!』
子供をあやすかの様な口調で僕の髪をくしゃっと撫でる。
あぁ、アルコールがまだ抜けきってない分少し辛いけど何だか落ち着く…。
それからというもの、彼女とは会いに行くようになった。
といっても付き合ってる訳でもなくただ夕飯を共にし、その日あったことを話題にしながらバラエティー番組を観て夜を明かす。
同じことの繰り返しでも退屈だなんて思わなかった。
『…』
が、しかし今日の彼女はなんだか不機嫌なようだ。
今までそんな素振りを見せてこなかったのでどう対処したら良いのか困り果てた。
「あの…子規ちゃん…」
『んー?』
「僕何かしましたか…?」
何故か敬語になる。
『…』
うわぁどうしよう絶対僕が原因だ、でも思い当たる筋がない!
『敦くん…』
「は、はぃぃ…!」
『私と敦くんが出会ってこうやってご飯食べたりするのも随分経ちます』
「そうですね」
子規ちゃんも敬語…真面目な話になるとこうなるのかな…。
『おかしいと思いませんか?』
「えーっと、と言いますと?」
『友達でも同僚でも他人でもない、しかもお互い恋人もいない若い男女が1つ屋根の下で泊まったりご飯食べたりしてることがです』
「あ…!僕もしかして子規ちゃんに甘えすぎてた!?
泊まりにいくの嫌そうじゃなかったから…!」
『そうじゃなくて!』
顔を真っ赤にして目線を合わせようとしないこの状況に流石の僕も彼女が何を言おうとしてるのかわかってきた。
「あ…」
『…こういうことは、敦くんから言って欲しい…です』