第1章 My Sweet Valentine
「ひでぇなぁ、もっと心配してくれると思ってたぜ」
サングラスはどこへ行ったのやら、むきだしの瞳が直接わたしを見た。
いつもわたしに向けてくれる、優しい瞳。
至近距離で見つめられてドキッとする。
・・・心臓に悪い。
だって普段ショーターがサングラスを外すのは、キスする時だから。
「心配、したじゃない?メールでは」
ドキドキを誤魔化すようにその瞳から目をそらす。
「オイオイ、あれのどこが心配なんだ?“この浮気者!!!(怒)”ってどういう意味だよ?」
「だってショーターが足ひねるなんて普通じゃありえないじゃない。パレードか見物客の中に美女がいて、よそ見したんでしょ」
ショーターは横になったままポカンとした後、むぅ、と膨らませていた私の頬を右手の親指と中指で挟んだ。
「その発想、相変わらずぶっ飛んでんなぁ。ああ・・・いたよ、美女」
「な・・・っ!やっぱり!?嫌いっ!ショーターの馬鹿馬鹿馬鹿!!!」
掴まれた頬から指を外そうと両手でもがくけれど、大きな手はビクともしない。
それどころかやけになってジタバタし始めたわたしを、事も無げにベッドの上に引き上げた。
「・・・っ!すぐそうやって誤魔化そうとする!」
いつの間にかショーターの頭越しに天井が見えていた。
「だから、誤魔化してねぇーよ。ここだって。美女」
鼻と鼻が触れそうな距離で、呆れたような真剣なような、どちらかよく分からない声でショーターは言った。
「え・・・?」
「だーかーらー、俺にとってはが世界で一番可愛くて綺麗なの。わかった?」
驚きと照れのあまり無言になったわたしに、ショーターは触れるだけのキスをした。
もちろんそれだけで終わらないことをわたしは知っている。
キスは唇を離れて頬、顎、首筋、鎖骨と移動し、くすぐったさに身をよじる身体をやんわりと押さえつけて、着ていたセーターを上に押し上げようとした。
「ま、待ってショーター、マーディアが来ちゃわない?」
「来やしねぇよ、今一番忙しい時間帯だし」
「で、でも足首・・・足首痛いんじゃ!?」
「へーきへーき。が上に乗ってくれりゃ」
「な・・・っ」
ショーターは赤面するわたしを見て笑った後、愛おしそうにぎゅう、と抱き締めた。
ああ・・・勝てない。
きっとわたしは一生この人には勝てないんだ。