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【BANANAFISH】短編【ショーター】

第2章 The last scene




「寒くねえの?」

ブランケットごと後ろから抱き締めると、は上半身に回された俺の腕をそっと両手で撫でた。

「ううん、今あったかくなった」

「そりゃよかったけど、黙ってベッドから抜け出すなんて、つれないことすんなよ」

「ふふ、ごめんね。あれが見たくて」

嬉しそうに答えたの視線の先には、一本の木があった。
桜の木。
チャイナタウンには沢山では無いが桜の木が植えてある。
そう言えば毎年咲いてるのがこの窓から見えてたな。
花になんて興味はないし、気にとめたことすら無かったけど。

「綺麗だよね・・・桜が咲くと、ニューヨークにも春が来たなぁって思うの」

はゆっくりと、俺の手を撫でながら言った。

桜はたった一本の木にこれでもかと花をつけ、街灯に照らされて時折まだ冷たい風に揺れている。

綺麗だと思う。
と一緒なら、こうやって静かに眺めるのも悪くない。

「まぁ綺麗だけど、には負けるな」

そう言うと、言われた本人は腕の中でクスクスと肩を震わせた。

「ショーターってたまに恥ずかしい台詞を平気で言うよね・・・そうやって何人もの女の子をたぶらかしてきたの?」

冗談で言ったわけじゃないのに、そんな風に返される。
はよくこんな発言をする。
過去は絶対に詮索しないくせに意外と嫉妬深い。

「何だよそれ。たぶらかした相手はだけだって」

そう言っても、は振り返って薄目で睨んでくるばかりだった。

「信じてないのかよ?」

「・・・別にそうじゃないけど」

嫉妬する必要がないほど綺麗なのにまるで自覚がない。
それはもう、出逢った時から無防備な程に。
そんなところも、に惹かれた理由のひとつだったのかも知れない。

の身体をこちらに向かせて、小さな子どもにするように勢いよく抱き上げた。

「ひゃ・・・っ」

急にこちらを見下ろす格好になったが、びっくりしたように首元に抱きついてくる。

「信じねえなら今日は朝までコースな」

「えぇっ!?そ、それはダメ、明日は朝早くから講義で・・・」

「バイクで送るから問題ねぇだろ?」

「えぇ!?えっと・・・元々信じてないわけじゃ・・・ないよ」

本気でおろおろと狼狽える姿が可愛い。


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