第6章 桜吹雪の奥に見た背中(土方)
「お二人さん、邪魔して悪ィが早く来て下せェ。乾杯もできやしねェ」
いつの間にか背後に立っていた沖田さんに二人揃って背筋を伸ばす。恐る恐る振り返ると胡散臭い顔で笑っていた。終わった。ちらりと隣に目をやると「やってしまった」というような顔で前髪をぐしゃぐしゃにしていた。
「あと残念なことに、去年と同じメンツが揃ってやすぜ」
それだけ言って沖田さんは私と土方さんを追い越して先を歩いて行った。去年と同じメンツ、というのはきっと万事屋のことだろう。ということは、私の貴重な友人たちもいる筈だ。
「土方さん、早く行きましょう」
「、オイ!」
普段運動しないやつの全力疾走なんてたかがしれているが、自分の中では最速のスピードでみんなの元へ向かった。
「藍子!」
「神楽ちゃん!あ、お妙ちゃんに新八くんまで!」
「久しぶり、元気だった?」
久しぶりにみんなに会えたことが嬉しくて、真選組での乾杯のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。
「藍子、お前まだあんなむさ苦しいとこで働いてんの?」
「あ、銀ちゃんいたの?」
「俺だけ扱い雑じゃない?どんな教育受けてんの?」
ふざけんじゃねーよ、とぶつくさ言う銀ちゃんはすっかり出来上がっているようで既に顔を赤くしていた。その瞬間、誰かに首根っこを掴まれる。
「うえっ」
「テメェはこっちだ」
声の主は副長。さっきまでの穏やかな声色ではなく、少し怒気が込められているようだった。
「マヨラー、藍子を離すアル。こちとら感動の再会中ネ」
「こいつはうちのだ。感動の再会とやらはまた後日やってくれ」
「うちの」という発言は素直に嬉しい。でも、せっかく会えたのだ。普段屯所から出る機会の少ない私は神楽ちゃんやお妙ちゃんたちと会う機会もほとんどない。なのに、そんな私を友達と呼んでくれる彼女たちと今日くらい一緒にいたい。
「土方さん、あの、みんなでお花見っていうのは」
「ダメだ」
ピシャリと言い切られてしまい、真選組の輪の中へ突っ込まれた。神楽ちゃんが心配そうにこちらを見ていたので、「ごめんね」と動作だけで伝えると、小さな頭が縦に揺れた。伝わったみたいでよかった。