第37章 一部・子守唄
その様子を見て、ふと気になっていた事を聞いてみる事にする。
「双子から櫛を貰った時」
『!』
「一瞬だけ表情が曇っていた」
『なーんでそんなところばかり見られるんだろう』
肩を竦めながら座椅子にドカッと座ると机の引き出しから夕食時に双子から貰った木箱を取り出す。
『形に残る物を貰うのは苦手』
「………」
『凄く嬉しいのは本当。でも苦手なの』
「何故だ」
対面する様に机を挟んだ正面に座してチヅルを見れば立て掛けた筝を見てまた視線を木箱に戻す。
『想いがあるから』
「想い?」
『亡くなった人から貰った物は形見になる。そして亡くなった人の事を思い出す』
「………」
『亡くなった人を思い出す程ツラいものは無い。でもだからこそ大切な人より先に逝きたく無いとも思う』
それはチヅルの優し過ぎる心根。そんな思いを大切な人にさせたくないと言う悲しい優しさだった。
「チヅルは…何処まで先が見えている?」
『うーん…』
藤色の双眼が真っ直ぐに俺を見る。
『貴方相手に嘘は通じないからハッキリ言うけど…マツとトシはもう永くない』
「…!」
『でもそれより先に………多分アタシが死にかける』
「っ!?」
ガタッと机に乗り出せば本人は"まあまあ"と特に気にしてる様子も無くいつもの軽い調子で話を続ける。
『死にかけるけど死にはしないから。ただ何で死にかけるかハッキリ見えないから対処の仕様が無い…し、あの子達も死にかけるアタシを救う為に命を落とす』
※※※
夢を見たの。鳥…多分あれはコウノトリ。首から揺籃をぶら下げて私達の前に降り立って、その揺籃をくれるの。コウノトリがくれた揺籃の中にはとても小さくて可愛い赤ちゃんがいた。男の子か女の子かは分からない。
その赤ちゃんを少し窶れた姉様がそっと抱き締めると姉様は…
-ガバッ-
「はぁっ…はぁ…」
「マツ大丈夫?」
「だいぶ魘されてたぞ、うん」
目が覚めると仕切りの屏風を越えて来たのか左右にトシとデイダラ。確か昨夜は姉様のお筝を聞いていたハズなんだけど…どうやら寝落ちしてしまったみたい。あんなに綺麗なお筝の音色を聞いて眠ったのに、こんな夢を見るなんて。
「マツ具合悪い?今日の学校休む?」