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氷華血鎖【鳴門】

第36章 一部・求めていたモノ


泣きそうな声で紡がれた言葉は少しだけ震えていた。



『アタシは…その………あの島出身だから…娼婦として育てられて来たし…純粋なんてものとは程遠いから…幻滅させるかもって考えると先に進むのが怖くて………』

「………」

『ほ、本当はもっと…くっ、ついて居たいとか…色々あるんだけど………怖くて心の準備が…』



普段はそれこそ悠然としていて頼り甲斐があって尚且つ自らの心に嘘吐きなチヅルにこんな一面があるとは。こんな一面を見せられてしまっては野暮な話は必要無い。



「………チヅル」

『ごめ…イタチさ…』





※※※





震える指先を握り締めるとイタチさんの手がアタシの拳を解く。思いの外、力が入り過ぎていたのか掌に爪が食い込んでいて小さな傷になっていた。
情けない。怖いものなんて何一つ無かったのに。近しい者の死も弟妹に見えてる死も怖くは無い。ただ悲しくてツラいだけ。男を籠絡する為に身体を使うのだって怖くは無かった。それが運命だと受け入れてたから。



『…っ』



でもイタチさんを愛してしまってから………彼に見える死も…彼に触れる事も触れられる事さえも怖くなってしまった。失うのは勿論だけど拒絶されるかもと思うとこんなにも怖くなる。
娼婦だった過去のアタシが今のアタシをこんなにも戒める。



「意外と不器用だな」

『え』

「今まで双子に愛情を注ぎ過ぎて愛され方を忘れてしまったか」

『愛、され…方?』



愛され方って…何だっけ。



『…!?』

「やはりな」



万華鏡写輪眼が写輪眼に、写輪眼が漆黒の眼に戻る。



『な…!他人の記憶や思考を読むのはアタシの特権なのに』

「俺にも出来る」

『…それは…知ってるけど…』

「チヅル」

『!』

「俺はお前の過去を知っている。全てが見えるチヅルとは違って俺が見えてるのは一部だろう。だがそれがどうした。過去も引っ括めて俺はチヅル…お前を愛している。それだと不満か?」



鼻の奥がツーンってなって視界が霞む。多分アタシがずっと欲していた言葉。
幼い頃から男がどう言う生き物か知っていたから男を愛する事なんて無いと思っていた。でもイタチさんを愛してしまった。だけどそれと同時に押し寄せたのは絶望。
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