第27章 一部・正体
しかしそれを言ってしまうとチヅル様がこんなに近くに居ながら感知出来なかった俺は何だったんだ、となる。まぁ上手く気配を消して居たのだろうけども。
「チヅルに何の用事が有るかは知らないが…チヅルを渡す事は出来ない」
『………』
ピクリ、と何処かの神経が苛立つ。
「シズル。お前はチヅル様の捕獲を最優先しろ」
「…でも!」
「幻術に滅法弱いお前じゃ分が悪過ぎる。前回の事を学習するんだ」
「………分かった」
※※※
温厚そうだった兄の方が、まるで人が変わったかの様な顔付きで俺を睨む。此奴は俺の相手だ、と咄嗟に感じた。
「チヅル」
『!』
「どうやら兄の方は俺と殺り合いたいらしい」
『………』
唇をきつく引き結んで目を伏せる長い睫毛が作る影は重たい。やがてか細い声で"分かった"と言う返事を聞いて抱えていたチヅルを下ろす。
『途中までしか記憶が読めなかったけど奴等の生存に大蛇丸が関与してる』
「!」
『どちらかは生け捕りで記憶を見たい。多分、頭の良いユキト兄様の方が情報量は多いと見られる』
と言う事は兄の方を生け捕らねばならないと言う事か。
「分かった」
『………本気で殺る』
「「「!!!」」」
チヅルの空気が変わった。
※※※
チヅルサマの雰囲気が変わった瞬間、天気も変わった。星が瞬く綺麗な月夜が鼠色の分厚い雲に覆われ、まだ時期的には早い雪がしんしんと空から舞落ちて来る。術か…否、違う。チヅルサマのチャクラに呼応してるのか。
「兄者…これ無傷で連れて帰るのは無理だぜ…」
「………」
前回とは比べ物にならない、おぞましい凍てつく殺気。吐く息は白く呼吸をする度に肺に刺さる冷たい空気が苦しい。
「殺す気でやらねぇと俺達が…死ぬ」
「…致し方無い、か」
「決まりィ!!!」
勢い良く地を蹴ってチヅルサマに突っ込む。
この二人のコンビネーションは俺達以上なのは前回で知ってる。休む間もなく攻撃を仕掛けて二人の距離を離れさせて尚且つチヅルサマに術を使用する隙を与えない。
幸いな事にチヅル様の武器はあの毒仕込みの弦のみ。