• テキストサイズ

氷華血鎖【鳴門】

第26章 一部・疑心と安心


そう。俺達の知るチヅル様はお母上似でとても小柄で幼い。霧羽太夫の色香とは無縁。でもそれは記憶の中の話。チヅル様ももう時期18歳。お母上以上に祖母に似てるから随分と大人になられてる可能性は充分にある。
目の色なんてコンタクトなんて言う便利な物もあるから、どうとでもなる。



「ちょっと無理矢理過ぎね?」

「例え話だと言っただろう。あくまで可能性があると言う事だ」



可能性は…かなり低いと思いたいが。霧羽太夫がチヅル様だとしたら役者顔負けの演技力だ。恐らく太夫をやってるのも俺達を誘き出す為だし、こう何度も目の前にして今すぐにでも殺したいハズなのに殺意も憎悪も抑えきって…だが、だとすると何の為に俺達を直ぐ始末しないんだ。





※※※





目を閉じて心地の良い音色に聴き入る。優しくて暖かい音。チヅルの人間味がそのまま滲み出ていた。



「霧羽太夫」

『「!」』



襖の向こうから聞こえてきた声にピタリと音が止まる。



「練習してはるところ申し訳ありんせん。そろそろ夜も深くなって来んした故…」

『あい、分かっていんす。もう休ませてもらいますぅ』

「お休みなさいませ」



遠退く気配にチヅルは小さく溜息を吐いて肩の力を抜く。



「良い音色だった」

『…!有難う』



素直にそう伝えれば照れ臭そうにはにかむ。チヅルの表情一つ言葉一言でこんなにも心が満たされるのは………そう言えばこの前、次会ったら話があると約束したか。



「チヅル」

『ん~?』

「………」



欠伸を噛み殺した様な気の抜けた返事。



「いや」



話は…明日が終わって村に戻ってからでも遅くは無いか。



「顔色が悪い。少し寝た方が良いのではないか」

『そうね。どうせすぐ起きるだろうけど』



未だ…魘され続けているのか。





※※※





「「………」」



向かいの建物の屋根から霧羽太夫の部屋を望遠鏡で観察する。少し筝を奏でると襖に向かって反応するあたり夜分だから止める様に注意されたのだろう。やがて行燈の灯りを消して部屋は真っ暗になる。
後姿しか確認出来てないが怪しい所は何一つ無い。



「シロか」

「………」

「まだ観察する?何なら忍び込んでみるとか」
/ 222ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp