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氷華血鎖【鳴門】

第26章 一部・疑心と安心


「それだけ危険な女って事だ」

「危険?」



そろそろ通い出して十日前後。芸を売ってるだけあって突飛した筝や三味、舞。他愛の無い世間話をしながらのお酌。やってる事は普通の太夫や芸妓と何ら変わりは無い。だけど何かが引っ掛かる。でもその何かが分からない。



「まぁ…何か陰はあるわな」

「…陰?」

「なんつーか…闇?俺だって伊達に女遊びしてる訳じゃねぇから何となく分かんだけど…霧羽の笑顔は綺麗だけど狂気が潜んでる………勘だけど」



狂気…
俺にはそうは見えないがシズルの直感はよく当たるから信用出来る。俺の中の引っ掛かりがシズルの言う狂気だとしたら…



「少し調べたい事が出来た」

「ぁん?綱手か?」

「いや違う。霧羽太夫だ」





※※※





-ギチッ-



「………」



三味線の弦を貼り替えてる様を漆黒の双眼が瞬きもせずに見詰めてくる。体調良くなったなら先に村に戻っててと一応言ったのだが本人はそれを拒んだ。どうやらアタシの事を心配してくれてるらしいけど…ここまでガン見されたら準備しにくい。



『あの、イタチさん』

「何だ?」

『あー…いや…何でも…』



何か…うん。そんな悪意の無い目を向けられたら何も言えない。ってゆーかイタチさんってこんなキャラだったっけ?何かもっと物事に興味無さげと言うかなんと言うか…そんな感じだった気がする。



「その弦…殺傷能力があるな」

『うん。まぁ準備は入念にね』

「それで奏でられるのか?」



切れ味抜群の毒を染み込ませた特殊な弦。



『触れる指と撥や琴爪をチャクラで覆えば全然』

「そうか…」

『………』



じっ…と弦を貼り終えた三味線とお筝を興味有り気に交互に眺める。



『………奏でようか?』

「…!良いのか?」

『いいよ。時間的にもまだ大丈夫だし練習がてら』



あんまり良くは無いけど…そんなに嬉しそうにされると、ね。





※※※





「霧羽を調べるって…何でだよ」



まだ賑わう歓楽街の屋根伝いに移動をしながらシズルが話かけてくる。どうにも納得がいかない様な顔付きで。



「例え話だけど…霧羽太夫がチヅル様だったらどうする?」

「は…?んだよその馬鹿げた例え話。有り得なねぇ!確かに髪色は同じだがそれ以外は全くの別物だ」
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