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氷華血鎖【鳴門】

第26章 一部・疑心と安心


チヅルの薬のお陰で驚く程に体調が良くなった。あんな薬を作るとは流石と言うべきか。並大抵の知識や技術じゃ不可能だと思われる。チヅルには先に村に戻る事を提案されたが、その提案は断った。
気が変わったのか明日中には終わらせる、と言っていたから少しでもチヅルの手助けが出来ればと思う。



-シャン…シャン…-



部屋の格子窓から街を見下ろせば道の脇には蟻一匹たりとも歩くスペースが無いくらいの人集り。そしてその道を歩くのは大層美しく変装したチヅル。所謂、道中と言うやつだろう。男衆と禿を引き連れゆっくりと歩く様はまるで舞っている様。



「………美しい」



無意識に出た言葉は誰に届く訳でも無く空気に溶ける。道中に魅入って惚けて居たら急に襖が開いて我に帰る。



「霧羽太夫の召し物、また増えはったなぁ」

「贈物してくれはる旦那さんが沢山居はるから」



女中が着物を抱えて入って来る。どうやら本当に俺の姿は見えてないらしい。これも流石と言うべきか大した結界術だ。



「ここ最近よぅ来はる旦那さん、既に一千万両貢ぎはってるん」

「あぁ、あのご兄弟!」

「男前やしお金持ちやし…そのうち水揚げされるんやないかなぁ」

「でも霧羽太夫、いくら大金積まれようと色んな殿方の水揚げ断ってはるん…わっち等、性を売る仕事ではあらんけど得意さんとも寝ぇへんし、お心に決めてる殿方でも居はるんかなぁ」



心に決めてる…殿方………





※※※





今日も今日とて嬉々として霧羽太夫の居る遊郭に足を運ぶシズルを見送って俺は捜索の途中経過を大蛇丸に報告する為に通信鳩を飛ばす。同行をせがまれたが、あーゆー所はあまり得意では無い。



-ガラッ-



「!」

「ただいまー…」

「シズル!?」

「霧羽、今日は道中と舞台だけなんだって」



珍しく落ち込んだ様子で戻って来たシズルはだらし無く畳の上に寝転ぶ。



「そろそろ寝てくれる交渉したかったんだけどなー」

「それは無理じゃないか?」

「はぁ?何でだよ」



恐らくあの太夫はどれだけ金を積もうが男と寝ないし水揚げも断るだろう。芸者と言う仕事に対して独自の信念と意志を持ってる様に見える。



「イイ女は金で寝ない」

「…珍しく随分と高評価じゃねーか」
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