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氷華血鎖【鳴門】

第25章 一部・遊郭


ふと思い浮かべるのは愛してやまない弟妹。



『下衆な兄と弟が』

「「下衆…?」」

『もう何年も会ってない兄弟です』



だけど愛してやまないハズの弟妹より真っ先に思い浮かんだのはイタチさんだった。



「君、愛してる殿方がいるでしょ?」

『………え?』

「兄者?何を…?」



愛してる殿方?何を巫山戯た事を。アタシは男なんてものは大嫌いだしアタシが愛してるのは弟妹だけ。




「その様子じゃ気付いて無いのかな」

「兄者待って。今の流れで何でそんな話?」

「一瞬だけ女の顔になったから。兄弟の話をしながら別の事考えてたんでしょ?」

『………』



此奴…!ずっとアタシと目を合わせないかと思ってたら人間観察してたのか。嫌な奴だ。ユキト兄様は昔っから頭脳派なのは相も変わらずか。あまりズルズル長引かせるのも先に気付かれてしまう可能性が出てくるから良くない、な。



『ご冗談を。わっちが愛してるのは太っ腹なお客様ですぅ』

「正直過ぎる太夫だな。嫌いじゃねぇ」



対してシズルは頭は良くないけど感覚タイプ。ある意味ではこっちの方が危険度が高いから一瞬も気を抜けない。





※※※





『はぁ…』



肩を押さえ首を回しながら疲れた様子でチヅルが戻って来た頃は日付が変わったくらいの時間だった。行燈を灯して化粧棚の前に座ると簪や櫛を雑に引き抜いてコンタクトを外し特殊な液体を染み込ませた布で化粧を落とす。



『体調はどう?』



いつもの幼さ残る顔で覗き込んで来る。化粧一つでここまで変わるのも女の特権、か。



「だいぶ良くなった」

『…はい、嘘』



多少荒っぽく額に冷えた布が押さえ付けられ視界が遮られる。位置を正して横目でチヅルを見ると巻物を広げて赤い液体の入った小瓶を取り出すと、それに筆を付けて巻物に筆を走らせる。



-ぼふん-



『取り敢えずはこんなもんかねぇ』

「………」



多種多様の薬草と薬研が取り出され薬を煎じ調合して行く。疲れの色が伺える横顔に視線を天井に戻す。



「すまない…」

『…馬鹿ね。これがアタシの役割でしょ』

「だがチヅルも疲れ…」

『あー…まぁね。下手な芝居してるし気ぃ抜けないし慣れない事をしてるから』



コキコキと首を鳴らす。
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