第25章 一部・遊郭
『まぁあの島で生まれ育った人間だからね。女なんて道具としか見てないだろうし大好物でしょ。だから利用させてもらってる』
アタシもそう言う教育受けてたからイロハが分かるし、と眉間に皺を寄せる。憎悪に満ちた表情だった。
『でもまぁ…なかなか昔のトラウマの克服は出来ないから遊女や花魁にはなれなかったけど』
「………」
『確かに此処は遊郭だけどアタシは太夫。芸は売っても身と心は売らぬが信条さ』
「芸?」
『芸事も子供の頃に叩き込まれてる。一応、今一番有名な太夫なんだよ』
その言葉の数々に少しだけ安心をした。だがやはり…ちょっと複雑なのもまた事実。
『んでもって数日前にやっと獲物が食い付いてきたところ』
「!!!」
『またの機会とない千載一遇の転機。もう少し時間はかかるけど必ず仕留める。イタチさんも暫くは休養が必要。居づらいだろうけど少し此処で大人しくしてて』
そう言うと褥に横になった俺に布団をかけて立ち上がると化粧棚に向かって紅を挿し直して桃色のコンタクトを装着する。
『誰か入って来る様な事は無いと思うけど入って来ても結界張ってるからイタチさんの姿は見えない様にしてるから安心して休んでて』
※※※
これは最近知ったのだけどコンタクトをしてる時はいくら相手の目を見詰めようとも記憶も思考も読み取れない。うっすいレンズ一枚隔ててるだけで意外と使えない鏡魔眼。だから大体、情報を探る時はお筝や三味線の音色を使って幻術にかけさせてもらって、その隙にコンタクトを外して記憶を見たりしている。
折角最近、能力のコントロールが出来て来たのに…って言ってもコイツ等相手じゃそれも無理だけど。
「なんだ霧羽。今日は酒が進んでねぇな」
『ええ、少し体調が…』
どうやって生き延びたか、とか今まで何をしてたか、とか知りたい事は山程あるから記憶を見たいのも山々だけど、正直アタシ程度の幻術だとどちらかが幻術に強ければ意味を成さないし困難であるのは事実。理想としては一人ずつ確実に始末したいところだけど腹違いと言えど兄弟。離れてた分、能力は未知数だし先日の戦いで少しくらいの力量は分かるし何せニコイチ。
『お二人共、仲が良いでありんすな』
「そりゃ兄弟だし」
「君には兄弟は居ないのか?」
『………居ますよ』