第24章 一部・獲物
「またか…綱手を探すと言う任があるだろう?」
「気にする事ぁねぇよ。歓楽街ってのは賭事場も多い」
金と性と酒を満たしてくれるのが歓楽街ってもんだ。だから娯楽島と呼ばれた乱宮島は男の欲を満たしてくれるの最高の島。それをアイツは…あの方は沈めた。俺達諸共…否、島の全ての人間諸共。
何故あんな事をしたのか俺には未だに分からない。だけど辛うじて生き残って目が覚めた時、兄者はあの方に対しての恨み口は一切言わなかったし寧ろビンゴブックに載っていた事に心底心配していた。
「なぁ…兄者。兄者はあの方………チヅルサマが何で島を沈めたか分かるのか?」
「………」
少しの沈黙の後、諭す様にゆっくりと口を開く。
「分かるよ。チヅル様は…あの島の因果を断ち切ったんだ」
その言葉の意味が俺には理解出来なかった。
※※※
珍しく突飛推しの無い事を聞いて来た自分より背の高いシズルの頭を撫でてやる。いくら恨み口を言おうと結局はチヅル様の事を知りたいのだろう。
「や、やめろよ!恥ずかしいだろ!」
「はいはい」
-ガヤガヤ-
ちょっとばかり可愛い事を言う弟を弄りながら歓楽街に足を踏み入れ少し歩くと人集りが出来ていた。
「霧羽太夫だ!霧羽太夫が三ヶ月ぶりに戻って来た!」
「戻って来たのは一週間前らしいぞ」
「道中やってくれるなんてサービス精神旺盛だなぁ」
黄色い声がそこら中から聞こえて来る。確か霧羽太夫って…二週間ちょいちょい前に風の国に居た…定期的に五大国を回ってるって雑誌に書いてあったか。そしてその時はもう移動するとかどうとかで一瞬しか見れなかったが…まさか火の国に来ていたとは。不思議な縁があるものだ。
「兄者!兄者!」
「ちょ、やめ…」
目をらんらんと輝かせて俺を引っ張りながら人集りの中に入って行く。人混みに押し潰されながら人集りを抜けて拓けると目に映るのはこれ以上に無い程に幻想的な光景。
男衆と禿を引き連れ番傘を挿しながら煌びやかな着物を肌蹴させ高さのあるぽっくりで円を描く様に倒れそうなくらいに身体を揺すってゆっくりと歩いて行く。
「すっげぇ…あれは騒がれるだけあるぜ………」
「………」
ちらり、と一瞬だけその桃色の瞳と目が合った………気がした。