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氷華血鎖【鳴門】

第22章 一部・進展


苦しそうに蹲る誰か。血に染まった様な赤黒い誰かの手。床に伏す誰か。誰かが誰なのかは分からないけど、その誰かがイタチさんの様な気がして気が気では無い。根拠は無いけども。



『………』

「………、あぁそうでした」

『「?」』



鬼鮫さんが何かを思い出した様に振り返って一歩アタシに近付く。



「一宿一飯の恩を忘れていました」

『え?いや…それは別に…』

「いえいえ、そう言う訳にはいきません。そうですねぇ…」

『だからそれは大丈…』

「そう言えば苺大福が好物だと聞き及んでいます。ちょっと私が買いに行って参りますのでお二人は此処で待っていて下さい」



そう言うと瞬時に姿を消してしまい、かける言葉も無く二人残されてしまう。



『「………」』





※※※





鬼鮫が去って暫し互いに沈黙を貫いていたが少ししてチヅルが何かの気配を感じ取った様に顔を上げる。



『結界から出た…本当に買いに行ったのね…』



成程。結界の出入りは感知出来るのか。だとすると兄が結界をすり抜けたのを気付かなかったのは距離が離れていたからか或いはチヅル自身が結界の外にいたからか。



「ならば戻って来るまで半刻程か」

『そうね。じゃあ少し時間あるし家に戻っておむすびでも握っとこうかな』



丁度昼時だし、と村に向かって歩き出すチヅルの後を追う。数歩先を歩くチヅルの無造作に束ねられた髪の毛が揺れるのを瞬きを忘れそうになるくらいに見詰める。



(猫にでもなった気分だな…)





※※※





台所に立つチヅルを居間から観察しながら、ふと考えるのは昨夜の事。家に戻る少し前…様子が変だった。言葉を詰まらせ顔を少しだけ青くしながら瞬きを繰り返していた。



「チヅル」

『ん~?』

「…いや、何でもない」

『???変なの』



問おうとするのを止める。多分どうせまたはぐらかされるのが目に見えたから。はぐらかすのが上手いから聞こうにも聞けない。そんな事を考えていたら冷たい指が眉間を抑える。



「!」

『難しい顔してる』



包みを二つ机の上に置いて机に肘を付きながら覗き込んで来る藤色の双眼と目が合う。眉間を抑える手を掴めば水仕事をしてた手はやはり冷たい。



『あ、鬼鮫さん戻って来た』
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