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紅茶とひまわりのクランケ【銀英伝】

第1章 仕事終わりには香る茶葉を


ミアは、同じくアソシエイトのナイトハルト・ミュラーとともに、パートナー弁護士であるオスカー・フォン・ロイエンタールの執務室に呼び出された。

「卿らに新たに担当してもらう案件ができた。ハイネセン区の自由大学附属病院がこの事務所の重要なクライアントであることは知っているな?」
ミュラーが口を開いた。
「もちろん、存じ上げています。ヨブ・トリューニヒト先生の…」
「その通り。あのトリューニヒトの野郎の白の巨塔だ」
ロイエンタールは顔をしかめて、まだよく理解していないようであるミアに分厚い資料を押し付けた。

ミュラーがミアの方を向いて、その資料の中の写真を指さした。
「自由大医学部は先進医療の研究で群を抜いているんです。附属病院は、その研究に基づいた最新の治療が施されている。とどのつまり、一流病院と呼ばれるところです。
トリューニヒト先生はその院長なんですが、これまた随分と口達者な人で、若くして院長の座に就けたのは、先生の医師としての腕というよりかは、カリスマ性というか。人を動かす大きな力を持ってらっしゃる方です」
ミアは、ミュラーの指さした先にあった男の写真を凝視した。
第一印象は、清潔感ある壮年。カメラに向かってにこやかに笑いかけているのだが、ミアは何とも形容しがたい違和感を覚えた。
口角の歪み、レンズを据える目線、ふてぶてしく構える立ち姿…
「察したか?」
ミアがふと気がつくと、ロイエンタールは彼女の方を向いて不敵な笑みを浮かべていた。彼女は、どことなくこの写真の男が目の前の上司に似ていると思った。

「トリューニヒトは厄介だ。外面だけは良いがな。
…さて、そろそろ本題に入るとしよう。かようなやんごとなき附属病院だが、全知全能というわけにもいかないらしい」
「…と、おっしゃいますと?」
「医療過誤だ。向こうが訴えを起こしている」
ミュラーは口元を固く結んだまま、黙っていた。
「この事務所の立場上、何としても勝たせなければならない。これはボス直々の令だ。アソシエイト実績トップツーの卿らなら、俺も安心して任せられるのだ」

「…了解しました」
ミアとミュラーは、一礼して部屋を出たのであった。
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