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紅茶とひまわりのクランケ【銀英伝】

第5章 それは昔の花


アッテンボローは、窮地から脱出すべく、信頼できる先輩を頼った。
「やっぱり、トリューニヒトの野郎は俺らの動きを勘ぐっていました。先輩も危険です」
「そういうことになるね。で、何か手立てはあるのかい」
「とりあえず昔の知り合いの弁護士を頼りました。でもあいつ、いつの間に移籍したんだか…この附属病院の顧問事務所の人間なんですよ」
「こまったねえ」
「相変わらず、よく落ち着いていられますね、ヤン先輩」
アッテンボローが口を尖らせて言うと、彼の先輩は眉をひそめて頭をかいた。

ヤン・ウェンリー。アッテンボローより2年早く自由大学医学部を卒業し、附属病院で内科医として働いている。
ヤンは学生時代からトリューニヒトを含めたこの病院組織自体をよく思っていなかったが、それでもこの病院で働くのには、苦学生であった彼ならではの事情があった。
両親を亡くして無一文だった彼が医学部に通えたのは、「自由大学同盟奨学金」のおかげであった。特待生で入学した彼は、学費等を全額支給、寮費は通常の半額であった。高校生までは比較的裕福だったために基本的な家事さえも心得ていなかった彼は、学業の間を惜しんで家庭教師のバイトに行って食い繋いだのだが、それでも医学部の学費は他学部より高額だったためになんとも有難い制度だった。
しかし、この制度には大きな落とし穴があった。この奨学金は返還不要であるが、その代わりに附属病院で最低10年勤務しなければ全額負担となってしまう。ヤンは泣く泣く、トリューニヒトのもとで働かなければならないのであった。

「…まず、その弁護士先生に会ったら、腹のうちを探るところから始めないといけないね。いくら昔の知り合いだからといって、全面信用するわけにもいかない。私たちの、例の[アレ]のことを言うのも、まだ保留だ」
「了解です」
アッテンボローは切に、古い友が変わっていないことを願った。
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