第2章 ハニー・ナースコール①
夜勤が終わり、少し睡眠をとってから、昼過ぎに事務所に向かう。
「お疲れ様です。」
事務所に入ると、夢野は椅子に腰掛けて、本を読んでいた。
「おや。会うのは久しぶりだね。夜勤で何かあったのかい?」
こうやって直接会って報告する時は、重要なことがあった時だ。
夢野もそれが分かっていたが、すぐに本の方に視線を戻す。
「あの…報告があってきたんですけど…」
「まぁソファーに座りなよ。話はそれから。」
七七七はソファーに座り、報告を始めた。
「犯人候補の高杉さんなんですけど、もしかしたらハズレかもしれないんです。」
「ふーん。どうして?」
「実は昨日、その……」
そこまで言って、七七七は口ごもる。どうにも昨日のことを思い出して、顔が赤くなる。
「なんだい?」
夢野が視線を七七七に移す。
「えっと…」
1度口ごもるとなかなか再開することができない。彼女は俯いて、必死に何か遠回しに伝えることはできないかと頭をフル回転した。
「い、淫魔のキスは催淫効果があるんですよねっ?」
フル回転した結果は、あまり芳しくなかった。
夢野は少しの間沈黙した後、本を机に置き、椅子から立ち上がる。
「そうだよ。唾液にも媚薬効果があるからね。」
夢野は話しながら、コツコツと靴を鳴らし歩く。
「あの、もし、ですよ。もし、キスが1回だけなら、催淫効果が出ない場合もあるんですか?」
「さぁ、分からないなぁ。」
「わ、分からないってそんなっ…!」
七七七がバッと顔を上げると、すぐ近くに夢野の顔があった。七七七は驚きのあまり、言葉を詰まらせた。
「だってよく考えればそうだろう?」
彼の指が七七七の唇をゆっくりとなでる。
「淫魔がキスして…1回で終わるわけないんだから、1回だけの場合がどうなるかなんて分かる訳ない。それとも…」
彼の顔がより一層、七七七に近づく。そして、耳元で彼は囁いた。
「試してみるかい?」