第2章 ハニー・ナースコール①
その時、また事務所の扉がけたたましく開かれた。
「ふぁ~…」
大あくびをしながら入ってきたのは、夢野だった。
慌てた様子で、報太郎は七七七から離れた。
「あぁ来てたのかい。報太郎。おはよう。」
夢野が報太郎を一瞥する。
「おはよ~。また妙なことが起こってるから報告しにきたよ。」
何事もなかったのかのようにする報太郎の背中を睨みつけた後、七七七は再びお茶の用意をし始める。
夢野が所長席に腰掛けると、報太郎も来客用のソファーに腰掛けて、事のあらましを話し始めた---。
妙なことというのは、この街にある大きな病院で起こっているらしい。
そこで看護師や事務員が何人も体調不良を起こしているということだった。
「風邪とかじゃないのかい?」
「風邪とは違って、全員疲れ切って動けないだけっていう症状らしい。被害者は全員女性だし、きわめつけは全員休む日の前日の記憶が曖昧ってこと。」
カチャリと音を立てて机にお茶が置かれる。
「記憶操作か…」
人間界で淫魔が女性を襲った時によく使う手段だ。魔法をかけて、その時の記憶を曖昧にして事件化しないようにする。
「誰の仕業か検討はついてるんですか?」
七七七がお盆を持って尋ねると、報太郎は不敵な笑みを浮かべた。