【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
あんな危険を犯してまで、助けに来てくれた。
最後、私を置いて逃げてもよかったのに。
ずっと、誰の助けも来ないと思ってた。
それなのにアッシュは来てくれた。
そのことがすごく、すごく嬉しい。
でも・・・・・・
「アッシュ、私がずっと何をしてきたか知ってるんだよね。あの部屋で何してたかも」
「・・・・・・・・・ああ」
私の質問に、アッシュは眉一つ動かさずに答えた。
「そっか、そうだよね」
何でだろう。
どうして、こんなに胸が痛いんだろう。
素直に喜べないのはどうして。
図書館で首の痣を見られた時も、知られたくないと思った・・・
「ごめんなさい。アッシュまで危険な目に合わせて、こうして迷惑をかけて」
他に、何も言うべき言葉が見つからなかった。
アッシュの顔をまともに見ることが出来なくて、私はまた俯いた。
今までどんなにつらいことがあっても、じっと耐えてきた。
この苦しみはいつか終わる。
夜が明ければ自由になれる。
そう信じて。
だけど今、自分にこんな気持ちがあることを知って苦しい。
きっと私は、アッシュにだけは、知られたくなかったんだ・・・
顔が上げられない私に視線を寄越して、アッシュが椅子から立ち上がる気配がした。
「何で謝るんだ」
アッシュは責める口調ではなく、ただ静かにそう言った。
「あんたは何も悪くない。悪いのは全部あの男だろ」
ふわりと首元に、柔らかな感触。
前にアッシュが私に巻いてくれたマフラーだった。
「あ・・・このマフラー・・・」
あの時捨てられていたのを拾ってくれたんだ。
思わず顔を上げると、予想だにしなかったアッシュの表情がそこにあった。
氷のように冷たい、目。
背筋がぞくりと凍えそうなほどだ。
でも、その目は私を見ているんじゃない。
私を通して、誰か別の人を見ていた。