【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第10章 Shorter
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「ふーん。もう一度抱きしめりゃよかったのに」
開口一番、能天気な答えが返ってきて、俺は完全に拍子抜けした。
返事の主は、ショーター・ウォン。
頼んでもいないのに、チャイニーズフードの材料をしこたま買い込んで、リンクスのアジトを訪ねてきた。
あれからリサとは何となくぎこちないまま、もう一日が経っていた。
今朝スキップが来てくれたせいか、リサの表情は随分と柔らかくなり、内心俺はホッとしていた。
「クソ野郎・・・オマエになんか話すんじゃなかった」
「なんでだよ?だってリサはアッシュのことが怖いワケじゃねえんだろ?だったら抱きしめてもっと早く落ち着かせてやりゃあよかったじゃねぇか」
「簡単に言うな、んなこと出来るか!てめぇ俺の話聞いてたのかよ、このくそハゲ!」
「ひでぇなオイ、しかも俺まだハゲてねぇから」
元々ショーターと俺とじゃ思考回路が全然違う。
ポジティブ過ぎるんだ、ショーターは。
でも、だからこそ、相談したんだが。
イラつく俺をしり目に、ショーターは少し離れた場所にいるリサを興味深げに眺めている。
リサはアジト三日目にしてやっと寝室じゃない部屋を歩き回っていた。
連れて回っているのはボーンズとコングだ。
二人ともニコニコと溶けたアイスクリームみたいな表情で、キッチンとは到底呼べないような設備と壊れかけの冷蔵庫を案内してやっている。
いつもむさ苦しいだけの場所に女子がいるのがそんなに嬉しいのか。
そのうち手料理を食わされて笑えなくなるだろうけどな。
スキップはというと、何故かアレックスと意気投合して、ボスの武勇伝、とかいう長い話を興奮気味に聞いていた。
つい先日の父親の死を微塵も感じさせない素振りの、いつものスキップだ。
「アッシュ!あんたってほんとにすげぇんだな!オレもリンクスに入ってもいい!?」
目を輝かせてこちらを見てくるスキップに、何故か横で力強くうなずくアレックス。
俺はもう考える力も失せて「好きにしろ」と言うのが精一杯だった。
そんな俺に、ショーターは声を出して笑った。