【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第7章 山猫の住処
アッシュに連れられてやって来たのは、とあるビルの一室だった。
「ここは?」
スキップがあちこち見回しながらアッシュに尋ねた。
「俺がたまに寝泊まりしてるところだ」
ベッドと破れかけのソファ、そして壊れかけのテーブルと椅子が全て一つずつのワンルームだった。
「とりあえずここで休めばいい。狭いけどあっちにシャワールームもある」
私はアッシュに促されるままベッドに腰掛けた。
「俺、なんか食うもの買ってくる!」
部屋から出て行こうとするスキップを、アッシュが片手で止めた。
「スキップ、この辺りは物騒だ。気をつけろよ」
「大丈夫!ここらはよく知ってるんだ!」
ウインクをして、スキップは元気に外へ出て行った。
「あいつ、スラム育ちなのか?」
アッシュは窓際の椅子に腰掛けながら言った。
「うん、この辺りには詳しいって言ってた気がするよ」
「そうか」
スキップが出て行ってしまったせいか、室内はビルの外の騒音だけになった。
私は何から話せばいいか分からなくて、膝の上で握った両手をただ見つめた。
手首の傷には包帯が巻いてある。
きっとあの医者が巻いてくれたんだ。
それなのに私は、突き飛ばしてしまった。
怖かった・・・大人の男の人が。
「スキップが帰ってくるまで寝てろよ。それとも俺が居ると気になるか?」
テーブルの上のパソコンを開きながらアッシュが言った。
いつの間にかメガネをかけている。
「ううん、そんなことない。そうじゃなくて、あの・・・」
うまく伝えられずにいると、アッシュはパソコンを叩く手を止めて顔を上げてこちらを見た。