【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第6章 Just want to
「もう入ってきてかまわんよ。命に別状は無さそうだ」
ドクター・メレディスはリサを一通り診てから、俺とスキップを診察室に入れた。
このモグリ同然の産婦人科医はオフだったところを叩き起されたせいか、ひどい寝癖に普段着に無理矢理白衣を引っ掛けたような出で立ちだった。
「よかった・・・!」
スキップが眠ったままのリサに駆け寄って安堵の表情を浮かべている。
あの後、スキップと合流してからここへやって来た。
医院の電気は消えていたが、申し訳程度に二度呼び鈴を鳴らしたのち扉を蹴破ろうとすると、すぐに鍵を開けてくれた。
「おそらく注射されたのは麻薬の類だと思うが、さっき人を認識して会話が出来ていたならそこまで深刻では無いだろう。ただね、手首や他の傷はともかく、下半身の裂傷が酷いからしばらくは安静にさせた方がいい」
メレディスは栄養剤の点滴を終えたリサの腕から針を抜きながら淡々と述べた。
スラム街で開業している以上普通ではありえない傷も見慣れたものだろうが、それでも眉間に深く寄せた皺がリサの状態の酷さを物語っていた。
スキップは表情を一変させて、悲痛な面持ちをしている。
俺はメレディスから傷薬を受け取りながら言った。
「分かった。明日の朝迎えに来るから今夜はここで寝かせてやってくれないか?」
メレディスはやれやれと言うように両手を上げてみせる。
「しょうが無いな。だが頼むからもう夜に叩き起してくれるなよ。今日は立て続けに手術したんで疲れて眠いんだ」