【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第6章 Just want to
ハッとしてリサを見ると、少しだけまぶたを開け、訴えるようにこちらを見ている。
「あれ・・・」
リサは部屋の隅のゴミ箱を力無く指さしていた。
中を見て欲しいということか?
すぐにそこを確認すると、ぐしゃぐしゃに丸められた白いパーカーと、底には俺がリサの首に巻いたマフラーが転がっていた。
「これか?」
拾い上げてベッドの上のリサに見せると、ホッとしたようにわずかに頬を緩めた。
「アッシュ・・・その、エレベータ、乗って、逃げて」
息苦しいのか途切れ途切れに喋るリサが、寝室の奥に直結しているエレベーターを示す。
俺は警察がリサを保護してくれる可能性と、このまま揉み消される可能性とを天秤にかけて、リサを抱き上げた。
軽い、軽すぎる身体だった。
「アッシュ・・・?」
リサが戸惑ったように小さくつぶやいたが、そのままエレベーターに滑り込む。
背中から男の声が追い掛けてきた。
「いまに見ていればいい。その女は10年もカゴの中で生きてきたんだ。外の世界に出て生きていけるわけがない!」
俺は振り返り、床に這いつくばったままの男を冷たい目で見つめて言った。
「ああそうかよ。でもたとえ本当にそうだったとしても、おまえがリサの生き方を決める権利なんて無い」
閉まる扉の向こうで、男は歪んだ笑みを浮かべてこちらを見ていた。