【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第6章 Just want to
男は口の端を少し上げて不愉快な笑みを浮かべた。
「・・・警察にでも突き出すつもりか?正義の味方を気取っても無駄だよ。私は警察関係者にも知り合いがたくさんいるんだ。もちろんここに来たこともある。何をしに来たのかは君の想像に任せるけどね」
なるほどな。
何重にも保身に保身を重ねているというわけか。
目の前にいるような、品が良いのは見てくれだけの腐り切った大人達に反吐が出そうになる。
言い返さない俺にいい気になったのか、男は続けて言った。
「だいたい、リサには充分な金は渡していた。外にだって住まわせてやった。あくせく働く必要もない。もし私が買ってやらなかったらどうなっていたと思うんだ?最悪の場合、臓器売買の為に殺されていたかもしれないんだ。不満なんてあるわけがないだろう?それなのに逃げ出したんだ。君の理想をぶち壊したら申し訳ないが、ベッドの上で誘惑してきていつもよがっていたのはその女の方で、」
「黙れ!」
銃弾がべらべらと必死でしゃべり続ける男の耳たぶをかすめて、ポタ、と絨毯の上に血が滴った。
「ひっ、ひぇぇぇぇ!」
まさか撃たれるとは思わなかったのだろう。
男は撃たれた衝撃で腰が抜けたのか尻もちをつき、膝をガクガクと震わせながら耳元を押さえている。
「わ、分かった、分かった!金ならやる!いくらでも!その女が欲しければ勝手に連れて行けばいい。だからどうか、命だけは助けてくれ・・・!」
他人の痛みなど想像もしないくせに、己のことになると必死で助けてくれと訴える。
「誰が金なんか欲しいと言った?たとえ何億ドル積まれようが、お前の命を差し出そうが、お前がリサにしたことが許されることは無い」