【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第6章 Just want to
今すぐバスルームに押し入ってしまいそうな衝動を必死で抑えつける。
怒りで震える手で、着ていたコートをリサにかけた。
ほぼ同時に、奥のバスルームから水音がしなくなった。
俺はバスルームの扉の影に身を寄せた。
扉がカチャリと開き、ガウンを着た男が現れる。
何が嬉しいのか鼻歌交じりに部屋に入ってきたそいつの後ろ頭に、銃を突きつけた。
「動くな。動いたらお前の脳味噌をぶち抜く」
「ひっ・・・!?」
予想だにしなかったであろう襲撃に男は狼狽えた。
「手錠の鍵を出せ」
「だ、出す、すぐに出すから・・・」
男はガウンのポケットから小さなキーを取り出して両手を上げた。
「そのままベッドの上にゆっくり置いてこっちを向け」
言われるがまま、男はよろよろと歩いてキーをベッドの上に置き、脚を震わせながら俺の方に向き直った。
「き、君は・・・」
男は大きく目を見開いた。
どうやら俺に見覚えがあるらしい。
おそらく俺とリサのことを図書館かそこらの周囲にある監視カメラで見つけでもしたのだろう。
男の顔は、フライがくれたリード・コーポレーションの経営者一族の写真の中にあった。
代表取締役の弟。
優秀な兄と違って、専務とは名ばかりの厄介者だと書いてあった。
情けなく狼狽した様子がますますこちらの神経を逆撫でする。
「どうして、ここに・・・」
男は何が起きているのか分からないといった様子でわなわなと震えていた。