【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第6章 Just want to
セキュリティカードをエレベーターの操作版にかざし、女は意味ありげな顔で俺を見送った。
「また後でね、お姉さん」
ダメ押しのウインクを送ると女は再び赤面し、俺一人を乗せたエレベーターの扉が閉まった。
近くに寄った時の香水の匂いで、胸がムカムカした。
・・・俺ならあんなやつは絶対に雇わない。
最上階まで、エレベーターは音もなく登っていく。
さっき脱いだコートを羽織りながら服の下にある銃の感触を確かめる。
もう幾度となく無意識にしてきた行動が、自分でも一瞬恐ろしくなった。
もし、俺の予想が正しくて、リサがここに居るんだとしたら。
俺はリサをここへ連れてきた人間を殺すかもしれない。
エレベーターの扉が開くと、もう一つ扉があった。
フライの送ってきた間取り図だと、この扉を入るとリビングルーム、その先がベッドルームで、ベッドルームの奥にバスルームがあるはずだった。
不用心にも施錠されていない扉を開き、人気のないリビングルームに入る。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋に大きなソファにローテーブル、そしてスクリーンがあった。
どれもそれなりに値の張りそうな調度品だったが、あまり使われていない様子だった。
足音を立てずにベッドルームにつながる扉の前まで行く。
耳をそばだててみると、少し離れたところでシャワーの水音がした。
念のため銃を片手に持ち、音を立てずに扉を薄く開ける。
人影はない。
薄暗い部屋の中、天蓋付きのベッドと小さな本棚がぼんやりと見えた。
「!」
そして、俺は言葉を失った。
探していた人は、大きなベッドの上に力無く横たわっていた。