【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第6章 Just want to
閑静な住宅街、という言葉がふさわしい場所にそのマンションは建っていた。
最上階はペントハウスにでもなってるのだろう。
ディノが所有するタワーマンションと比べれば足元にも及ばないが、そこそこの値段がすることは伺えた。
問題はそこまで辿り着けるかどうか・・・
車を少し離れた所に停め、マンションのエントランスに足を踏み入れる。
コンシェルジュの女がにこやかにお辞儀をしてきた。
「いらっしゃいませ」
どうやら住人でないことはバレているらしい。
俺は最上級の微笑みを顔に貼り付けた。
「こんばんは。最上階に用があるんですが通してもらえますか?」
そう言ってみると、コンシェルジュの女は穏やかな笑顔の下にわずかな不信感を漂わせた。
「恐れ入りますがお約束はされてますか?本日、御来客の予定は承っておりませんが」
やっぱりストレートに行ったんじゃダメか。
俺は着ていたコートを脱ぎ、シャツの首元を片手でくつろげた。
「あれ、おかしいなぁ・・・僕、さっき急に呼ばれたんです。ほら、リードさんてせっかちでしょう?早く行かないと、僕、こっぴどく叱られちゃうな・・・」
コンシェルジュのカウンターに片腕をついて、ふ、とため息をつく。
女は耳まで紅くして目をしばたかせた。
「あっ・・・・・・・・・そ、そうでしたか。リード様のご友人の方ですね。失礼致しました。こちらへどうぞ」
いちかばちかで名前を出したのが功を奏したか、女は俺をエレベーターへと案内した。