【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
リサはフード越しに、まるで悪事を暴かれた子どものような目をして俺を見た。
それ以上何も聞いてくれるなと、そう言っているかのようだった。
「何でもないの。ちょっとかぶれちゃって」
長いまつ毛を伏せてそう言った。
そんなの嘘だと分かったけど、俺はそれ以上何も聞けなかった。
リサが、服の上からでも分かるくらい震えていたからだ。
「そうか。・・・この問題?これはこっちの公式を使って・・・」
何事も無かったかのようにいつも通りに解説し終わると閉館時間はもうすぐだった。
まばらに帰って行く人達と一緒に図書館を出た。
リサの表情には、いつもと違ってどことなく緊張感が漂っているような気がするのは寒さのせいだけじゃないだろう。
「今日は真っ直ぐ帰るのか?」
地下鉄の駅の方向に歩きながらそう聞くと、リサは無言でコクンと頷いてからくしゃみをした。
「それって返事?」
小さく笑いながらそう言うと、リサの顔もふふっとほころんだ。
「ごめん、うん、真っ直ぐ帰るよ」
穏やかな表情に戻ったリサを、内心ホッとしながら見つめた。
パーカーに細身のパンツにスニーカー。
ダウンジャケットを身に纏う人が行き交う街中で、リサだけが今にも消えてしまいそうに見えた。