【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
地下鉄に降りる階段はもう目の前というところでリサがパーカーのフロントポケットからスマホを取り出した。
画面を見て、途端に表情が曇る。
「私、用事が出来たから寄り道して帰るね」
立ち止まったリサの顔は、“寄り道”なんて可愛らしい言葉が似つかわしくないほど青ざめていた。
何か良くない知らせだったのだろうか。
「ああ、またな」
そう言うと琥珀色の瞳が真っ直ぐに俺を見た。
今にも泣きだしそうな瞳だった。
大丈夫か、と声をかけようとすると、リサは身を翻した。
「ありがとう、また、ね」
泣きそうな面影は一瞬で消えて、再び静かな表情に戻っていた。
色の無い目だった。
階段を降りながらふと、思う。
俺はあの目を見たことがある。
あれは“絶望”を知ってる目だ。
絶望、悲観、自棄・・・誰かを憎むことすらできなくなりそうな、無気力感。
あの頃の俺と、同じ目だ・・・