【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
翌週も、翌々週も、我ながら律儀に図書館へ行った。
今日で3回目だ。
もうすぐ2月になろうとしていた。
日が沈んだ頃に着くと、リサはいつものように数学のテキストを片手に問題集を解いていた。
相変わらずたまに質問してくる以外は全く干渉もしてこず、今までは来ても数時間して帰っていた俺は自分の読みたい本を閉館まで読み続けた。
20時になり、自然と一緒に外へ出た。
瞳まで凍りそうな寒さに襲われる。
こんなに寒いのに、リサは今日もパーカーを目深に被っているだけだった。
パーカーのフロントに大きく漢字のようなものが書いてあるが、俺には意味が分からなかった。
どうせまた変な意味なんだろうな、と思った。
「私は地下鉄だけど、アッシュは?」
「俺もだ」
そのまま同じ方向へ並んで歩く。
リサは数学のテキストをカバンにもいれず右手で抱えていた。
「ほかの科目はやらないのか?」
特に話題も無いので地下鉄の駅まで歩く間に素朴な疑問をぶつけてみる。
「国語や社会は読んだらなんとなく分かるから・・・でも数学や理科は答えや解説を見ても解き方がよく分からなくて、だから教えてもらいたくて。アッシュは何でもすらすら解いちゃって、すごいよ」
純粋な尊敬の眼差しを向けられた。
「無理矢理勉強させられたんだ、その頃は全く興味が無かったことまでな。俺の意思とは関係なく」
そう言うとリサの表情が曇った。
「そう、だったの・・・。ごめんね、こんなことお願いしてしまって・・・」
大したことを言ったつもりは無かったのに、やたら落ち込ませてしまったようだった。
「別に教えるのが嫌なわけじゃない。それに皮肉なもんで、無理矢理学ばされたことがけっこう役に立つこともあるんだぜ」
「そうなの?」
リサは俺の言葉を聞いてホッとしたようだった。