【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
「じゃあな」
そう言って図書館を出ると、乾燥した空気が頬を刺した。
夕陽が眩しくて目を細める。
「今日はありがとう、アッシュ」
突然背後から声がして振り向くと、リサが着いてきていた。
「前も思ったけど、あんたって足音がしないよな」
「えっ?」
よく聞こえなかったのかリサが言った。
「いや、なんでもない。あんたには助けてもらった借りがあるんだ。別に礼を言われることじゃない」
首にマフラーを巻きながら言った。
「ううん、私が勝手にしたことだからそれはいいの。一人で勉強してると分からないことだらけで・・・ほんとに助かった。じゃあ寒いから気をつけて」
微かに笑ってリサは図書館に戻ろうとこちらに背を向けた。
パーカーのフードをかぶった小さく寒そうな後ろ姿。
それを見て、無意識に俺は呼びかけていた。
「いつもあの席に座ってるのか?」
振り向いたリサは、今日俺を初めて見た時と同じくらいに驚いていた。
「うん、いつもあの端っこの席」
驚いた顔が嬉しそうな笑顔に変わって、リサは図書館の中に消えて行った。
夕陽に照らされたリサの顔が、しばらく頭から離れなかった。