【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
午後5時。
リサは15分に一度くらい、いくつかまとめて質問をしてくる以外はひたすら一人でテキストに向き合っていた。
やっているのはずっと数学のテキストだ。
リサがしてくる質問はこの問題が分からないから解き方を教えて欲しいというものから、三角形の面積を求める時になぜ2で割るのかという予想外のものまで色々だった。
おそらく、小学校にもちゃんと通わなかったのではないだろうか。
16歳だと言っていたが、高校にも通っているようには見えない。
まあ別にそんなのニューヨークのストリートキッズはほとんどがそうで、さして珍しくも無い。
俺だってそうだ。
それでも一生懸命テキストを読んでいる姿を見ると、別に勉強が嫌で通わなかったわけじゃないということは分かった。
基本的なことは自分で読んで理解していたし、だいたいのことは少し説明すればああそうかと納得した。
むしろ学ぶことは好きなように見えた。
熱心に説明を聞く様子から、今までは分からなくても質問する相手がいなかったのかも知れない。
ストリートキッズでなくても人には色々事情ってものがあるだろう。
他人をあれこれ詮索するのは趣味じゃない。
俺は椅子から立ち上がった。
「用事があるから帰るけど、今何か聞きたいことは?」
「ないよ、大丈夫」
顔を上げたリサは小声で首を横に振った。