【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
ーーー遡ること一週間前。
俺は目の前に座ってる少女に死にかけているところを救われた。
リサもスキップも最後まで、何故俺があんな状況になったのか、何も聞いてはこなかった。
俺も、他に帰る家はあるらしいスキップはともかく、何故リサがこんな物騒な地域のアパートに一人で暮らしているのか、何も聞かなかった。
聞いたところでもう二度と会うことは無い。
万が一ニューヨークのどこかで会ったとしても、言葉を交わすことも無いだろう。
俺がホットドッグを食べている間、スキップが、次のシーズンでヤンキースとレッドソックスのどっちが勝つかとか、脚が長いけど股下の長さは何センチかとか、そんなたわいも無いことばかり訊ねてきた。
食べ終えた後、洗濯されてすっかり縮んでしまったジーンズをはいて、綺麗に血の跡が落とされたシャツとジャケットに着替えた。
帰ろうとする頃には、これは何かの罠で、実は食事に睡眠薬でも入っていて、目が覚めたらオーサーの一味に取り囲まれてるんじゃないか?などという疑念はすっかり消え去っていた。
この家のどこにも悪意など無かった。
ご丁寧に電池切れのスマホまで充電してくれたおかげでアレックスに連絡もできたし、なぜか余ったホットドッグまで渡される始末だった。
元々そんなに食わないから要らないとは言い出しづらく、素直に受け取った。
まるで遠い昔の記憶の中にある、親戚の家に行った時のようだった。
目の前に居るのは、ほんの10歳くらいの少年と、13〜14くらいにしか見えない同い歳の少女なのだが。