【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
時刻は午後3時の公立図書館。
俺は机に積み上げた本の必要なページだけを次々頭にインプットしているところだった。
向かいの席にはリサがいて、数学のテキストと睨み合っている。
相変わらず変なフレーズが小さく書かれたパーカーを着ている。
それもフードを目深にかぶったままだ。
“Wish you were beer”
(あなたがビールだったら良かったのに)
おそらく“Wish you were here”(あなたがここに居てくれたら良いのに)をもじったものなのだろうが、分かっているのかいないのか・・・
人の趣味にとやかく言うつもりは無いが、ショーターの着ている(おそらく)変な漢字やニホンゴの書かれたTシャツはともかく、ここはニューヨークだ。
英語が母語の人間がごまんといる中で、よくこんなモノを着ていられるな・・・
出来ればこんな奴と知り合いだとは思われたくない。
小さくため息をついて、パーカーのフードの下で真剣な顔をしているリサを眺めた。
そもそもなんでこんなことになっているのか、俺は調べ物の手を止めて思い出していた。