【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第3章 美しい人
ここからは、ニューヨークの街が見渡せる。
落書きだらけの路地裏や、細部まで計算し尽くされた最先端の建築物。
白い息を吐きながら遠くを見つめていると、やがてビルの群れの輪郭がオレンジ色に染まり始める。
長く、暗い夜に抵抗するみたいに、あたたかい色に変わってゆく。
綺麗なものも汚いものも、全て包み込んで。
「燃えてるみたい・・・」
オレンジ色に手をかざした。
あたたかいはずは無いのに、温度を感じた。
手のひらから、腕をつたって全身が浄化されるような気がする。
私はこの瞬間が好きだった。
思わず歌を口ずさむ。
誰が歌ってくれたのかもわからない、もう歌詞もまともに覚えていないような歌。
唯一記憶に残っている、幼い頃に聴いた歌だ。
空が明るくなるまで何度も何度も歌う。
ふと何故か、昨日図書館で会った人のことを思い出した。
ブロンドの髪に、透き通るようなグリーンの瞳。
ほんの少しだけ見せた笑顔。
・・・何で思い出したか分かった。
きっとあの人も、この景色と同じくらいに美しいからなんだ。