【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第3章 美しい人
男の手が、薄いワンピース一枚まとっただけの肩を撫で回した。
「可哀想に。随分痛めつけられたそうじゃないか。見せてごらん」
背中のジッパーをゆっくりと下ろされる。
パサ、と塵ひとつ無い床にワンピースが落ちて、私はその場から動けなくなった。
「あぁ、まだ少し紅いね・・・」
剥き出しになった背中に舌を這わされる嫌悪感に、全身が鳥肌を立てる。
朝から何も食べていないのに、胃から何かがこみ上げてくる。
腕をひかれて、大きなベッドに押し倒された。
反射的に顔を覆うと、クク、と笑い声が降ってきた。
「幾つになってもその癖は治らないんだね」
聞こえないふりをしていると、耳元から首筋に舌を這わされた。
下着を脱がされ、ゆっくりと全身を嬲られる。
まだ、痛みを与えられる方がいい。
殴って、引きずり回して、引っ掻いて、噛み付いて。
痛みを感じている間は、何も考えなくて済むから。
この感覚から逃れるには、人形になるしかない。
何も見えない、何も聞こえない。
私はただの人形。
今、私の心はこの世のどこにも存在しない。
「今月の生活費は運転手に渡してあるよ」
何度も何度も犯した後で、ガウンを羽織りながら男が言った。
「それと、いつまであの安アパートに住むつもりなんだね。ここの方がよほど快適だろう?」
「・・・・・・・・・」
「まあ、君が住みたいと言うなら構わないよ。外の世界もたまには見たいだろうしね。家賃は払っておいたから好きにするといい」