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【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第3章 美しい人



アパートに帰ると、何かが焼けるいい匂いと共にスキップが出迎えてくれた。

「おかえりリサ、お腹空いた?晩メシ食うだろ?」

「ただいま。食べたいんだけど、またすぐに出かけなきゃいけなくて・・・先に食べて、寝ててね」

私の返事に、スキップが心なしか心配そうな顔をした。

「リサ、顔色が良くないよ。大丈夫?」

「うん、大丈夫。いい匂いがするね。朝帰ってきたら作ってくれたご飯食べたいな。作り立てが食べられなくて残念だけど・・・」

そう言うとスキップは何か言いたげな表情をしたけれど、笑顔で「うん」とうなずいてくれた。

スキップはいつもそう。
きっと色々聞きたいことはあるだろうに、何も聞かず、何も言わずにいてくれる。

私がもっと強かったなら、全てを打ち明けることが出来るんだろうか。






定刻通り迎えの車が来て、後部座席に乗り込む。
重たい気分とは裏腹に、車は目的地へとスムーズに進み、やがていつものようにマンションの地下駐車場へ停まった。

無言で車を降り、誰に案内されるでもなくエレベーターに乗る。
キーの代わりに指紋をかざすと、エレベーターは最上階まで登っていく。

死刑台に上がる囚人の気持ちがどんなものかわからないけれど、もしかしたらこんな気持ちかも知れない。
逃げたくてたまらないけれど、逃げる場所がない。
どこにも行くところなどないのだ。

エレベーターが開くと、豪華絢爛なベッドルームの暖炉の傍に男が立っていた。

「久しぶりだね、リサ。こっちへおいで」

私は満足気な笑みを浮かべる男に向かって、静かに歩みを進めた。
背後で音もなくエレベーターの扉が閉まった。

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