【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第3章 美しい人
それから一週間。
ようやく背中の傷が癒え、図書館へ行く火曜日がやってきた。
一日中家に居ても、明け方に眠りにつき夕方起きるという生活リズムは変わらない。
だけど今日はなぜだか少しだけ早く目覚めた。
午後3時、図書館に到着した。
先週よりさらに寒さは増してはいるが、よく晴れていた。
太陽の眩しさに目を細めながら図書館の中に入り、先週読み始めた本の続きを読むために書架へ向かう。
「あれ・・・あんな高いところに置いてあったっけ・・・」
目当ての本を見つけたはいいが、簡単には取れそうにないところに並んでいた。
踏み台を取ってきてもいいけれど、もしかしたら届くかも知れないと思って背伸びをしてみる。
「あ・・・もう、ちょっと・・・・・・えいっ・・・と」
背表紙の端に指が届いたのに、周りの本の間に挟まれてなかなか引っ張り出せない。
「ん・・・っ、ふ・・・・・・」
土踏まずがつりそうになりながら足掻いていると、突然背後から手が伸びてきて、目当ての本を取り出してくれた。
「これ?」
驚いて振り向くと、どうぞと手渡してくれる。
「あっ、ありがとう・・・!」
なんて親切な人なのか、とパーカーのフード越しに見上げると、その人は小声でクスクスと笑っていた。