【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第3章 美しい人
「スキップ、今日はお父さんが家にいるの?」
「うん。今回は長い間いるらしくてさ。だから俺、しばらくここにいてもいい?」
「もちろん。むしろ私は助かる」
真面目な顔してそう言うと、スキップはくりくりした目をイタズラっぽく輝かせて言った。
「リサって俺がいないとろくなもの食わないもんね。服とか靴もよく床に脱ぎ捨ててるし」
「そう。だから好きなだけいて」
「仕方ないなー。そこまで言うならいてあげてもいいぜ」
スキップがそう言ってふたりで笑い合う。
もし私に兄弟がいたなら、こんな感じなのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えた。
もし私に兄弟がいたら。
もし私に両親がいたら。
もし帰るための暖かい家があったなら。
もし・・・
これまでに、数え切れないほどたくさんの“if”を頭の中に描いてきた。
そんなことは無駄だと知りながら。