【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第3章 美しい人
「16歳だそうだね?どうしてメイクなんかするんだい?しない方が、もっと幼く見えるのに・・・」
男は嬉しそうに唇についたリップグロスを親指で拭った。
着ていたシャツのボタンを上から順番に外しながら、舐めるようにこちらを見る。
私は何も見ないように瞳を閉じた。
無駄な動きは無い方がいい。
一秒でも早く、この時間を終わらせるために。
男はしばらくの間私の身体に好きなように触れていたが、しばらくすると身体を裏返しにされた。
「綺麗だ・・・まるで子どものような肌だね」
そうつぶやきながら、男は背中に噛み付いた。
薄い皮膚が破れそうなほどに歯を立てられる。
「・・・・・・っ!」
私は固く目を瞑ったまま、今日読んだ小説の一説を必死で思い出し、ひたすら頭の中で繰り返す。
男の汗ばむ肌が、耳元に吐き出される吐息が、身の毛もよだつほどに気持ち悪い。
もう、慣れたはずなのに。
どれだけ嫌でどれだけ苦しくても、絶対に助けは来ない。
そうわかっているのに、どうしてまだこんな無駄な感情が残っているんだろう。
やがて、男は痛みに声すらあげなくなった私を押さえつけて、その欲望の全てを私の中に吐き出した。
・・・やっと終わった。
そう思ったのに男の腕は離してくれず、再び首筋に噛み付かれた。
今すぐシャワーを浴びて、何もかも洗い流したい。
早くこの悪夢のような時間が終わって欲しい。
どれだけ高級でも私にとってはなんの意味も持たない部屋の中で、ひたすら夜が明けるのを待った。