【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第3章 美しい人
先週“F”から始まる本を読み終わったから、今日は“G”から始まる本を探す。
なにか特別読みたい本があるわけでも、どんな本が面白いか考えているわけでもなかった。
ただ何を読むべきかわからなくて、とりあえず頭文字が“A”から“Z”まで一冊ずつ読んでみようと、そう決めただけのことだった。
誰もいない列の本棚を選んで、文字の大きさも分厚さも考えずに、一番読み古されていそうな背表紙を選んだ。
手に取って、辞書と共にお気に入りの席に座る。
一番端の、人目につかない場所だ。
私にとって辞書は常に必要だった。
初めて読む単語が出たら、すぐ調べられるように。
“The Gift of the Magi”
(賢者の贈り物)
綺麗に装飾された表紙には、恋人らしき男女の絵が描かれていた。
15分程経ったところで、ヴヴヴ・・・とスマートフォンのバイブが振動して、唐突に物語の世界から引きずり出された。
すぐにメッセージを開く。
“パークハイアット
2025
19:00”
たった三行の短いメッセージが、私に本を閉じさせた。