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【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第9章 ふたつの心




そう言ってひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。
ボーンズが、ちぇっ、と舌打ちする。

「アレックスのやつ、また俺に押し付けやがったな〜。でもそういうことだから。隣の部屋にいるしいつでも言ったらいいぜ、コングに」

「え?最終的に俺?」

自分を指さしたまま困惑顔のコングのキョトンとした表情に、思わず笑ってしまった。
わたしにつられたのかボーンズも、そしてコングまでにっこりと笑っている。

きっと街中で突然出会ったら、ちょっと柄が悪くて怖い人、と怯えてしまうかも知れないのに、そんな二人からは可愛らしささえ感じられる。

「ありがとうございます、皆さん・・・」

ありがとう、アッシュ。
きっとアッシュのおかげで、皆優しくしてくれるんだね。
見ず知らずの人間なのに、アッシュを助けたという事実だけでこの人たちには充分なことなんだ。

わたしは部屋を出ていくボーンズとコングにもう一度お礼を言ってから、すっかり適温になったスープをすくって口に入れた。


・・・本当に色々なことがあった、今日。

でもアッシュがくれたこの場所で、わたしは孤独ではなかった。
アッシュは自分のことを人殺しだと・・・ろくでもない人間だと、そう言ったけれど。
わたしは今日、アッシュのことを心から信頼する人が少なくとも三人はいることを知った。
そうでなければ、こんなにもすんなりと、わたしを受け入れてくれるはずがない。

アッシュが戻ってきたら、改めてお礼を言いたい。
そして伝えたい。
倉庫であんな風に自分を卑下したけれど、アッシュはやっぱりろくでもない人間なんかじゃないって。
信頼されて、必要とされている人間なんだって。


・・・そして、そんなアッシュに、確かな居場所のあるアッシュに、わたしはいつまでも迷惑をかけてはいられない。
さっきはアッシュと離れるなんて考えただけで苦しくなってしまったけれど・・・

あと、一週間。
それが、わたしがここに居られる期間。

わたしはそれまでに覚悟を決めなければいけない。
そばに居たいけれど、ずっとそばに居るわけにはいかない。
家族でもない、彼女でもない。
ましてや堂々と友達だとも言えない、そんなわたしのワガママに、アッシュを付き合わせるわけにはいかないのだから。


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