【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第9章 ふたつの心
「アッシュ・・・」
どうして、そんなに優しくしてくれるの?
そう喉の奥から出かかった時、コンコン、と扉が叩かれて、ダークブロンドの頭が覗いた。
同時に食欲をそそる匂いが鼻をくすぐる。
「腹減ってるだろ?」
アレックスが両手に缶詰のスープを持って部屋に入って来て、緊張のせいか無意識に自分の身体が硬直するのが分かった。
「今これしかねえけど。食わないよりはいいと思って」
「サンキュ」
アッシュはアレックスから缶詰を二つ受け取って、片方をわたしに差し出す。
わざわざわたしの分まで持って来てくれたのだ、と少し驚いた。
「まだ熱いぜ」
以前舌を酷く火傷して以来、アッシュは猫舌の私を気遣ってくれる。
「あ・・・ありがとう。気をつけて食べるね」
わたしが二人に向かってそうお礼を言うと、わたしとアッシュのやり取りを見ていたアレックスが、珍しいものでも見るかのような表情をしていた。
だけど、さっき初めて会った時よりは視線が柔らかいような気がして、勇気を出して話しかけてみようと思えた。
「あの、突然やって来て驚かせてごめんなさい・・・ここに居る間、出来るだけ皆さんに迷惑をかけないようにします」
今自分に言える、精一杯の言葉だった。
「あーーー・・・その、詳しい事情は分からねぇけど、さっきアッシュにちょっとだけ聞いたよ。行くとこ無いんだって?」
そう言って少し気まずそうに鼻の頭を掻く。
「あ・・・はい・・・・・・」
「まぁまぁ、俺らはそういう奴の集まりみてぇなもんだし、そんな気にすることじゃねぇからさ」
そう言うと、アレックスは戸惑うような曖昧な笑顔を浮かべた。
不器用なりに言葉を選びながら話しかけてくれた、そんな気がした。
・・・最初の印象よりはずっと、優しいものを感じる。
アッシュはそんなアレックスの発言を特に気にとめる様子もなく、缶詰のマッシュルームをフォークで刺して口に運んでいる。
でもきっとアッシュが彼に何か言ってくれたのだろうと思った。
だからこそ、わたしに話しかけてくれたのだろう。
ありがとうございます、と言おうと口を開くと、今度はノックも無しにバタンと扉が開いた。