【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第9章 ふたつの心
申し訳ない気持ちで頭の中がいっぱいになる。
その後もアッシュがアレックスと会話をしている声が聞こえていたが、二人が声のトーンを抑えたせいか話の内容までは分からなかった。
しばらくしてアッシュが部屋に入ってきた時、わたしはまだタグを切っていない服を握りしめてその場に立ち尽くしていた。
アッシュからは仄かに、嗅ぎ慣れない煙草の匂いが漂ってくる。
「リサ?寝てろって言ったろ。あと何でそんなモン持ってるんだ?」
片手にナイフを持ったままのわたしを見て、アッシュは少し驚いたように眉をしかめた。
「あっ・・・服のタグを切ろうとしてて、ごめんなさい」
そう言うとアッシュは、あぁ、と表情を緩めた。
「別に謝ることじゃねぇけど・・・あ、腹減ってるよな、晩飯食ってねえし」
お昼から何も食べてなかったけれど、そんなことよりもこんな所にまでのこのこと着いてきて、アッシュにどう謝ろうかとそればかりを考えていた。
でも何と言えばいいのか。
そして、謝ったからと言ってこれからどうしたらいいか何か案があるわけでもなかった。
「ううん、それは大丈夫。アッシュは?お腹減ってない?」
「少し。何か食うもんあるか見てくる」
アッシュはもう一度部屋から出て行こうとしたけれど、暗い表情のわたしを見て立ち止まった。
「ああ・・・アレックスの声が聞こえてたのか?気にするなよ、リンクスの奴らにはこの先一週間はここに出入りしねぇように指示したから」
「っ、えっ?」
予想もしていなかった発言に、驚いて変な声が出る。
アッシュは相変わらず冷静で、何でもない事のように続けて言った。
「そんな顔するなよ。他にも場所はあるからその間はそっちを使うだけのことだ。気に病むことじゃない」