【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第9章 ふたつの心
「お・・・女!?」
アレックスは信じられないような目でアッシュと私とを代わる代わる見た。
台詞から察するに、きっと年齢より性別に驚いたのだろう。
「おまえ、こいつが男に見えるか?」
言いながらアッシュがその辺の机に置いてあったタバコを取り出し口にくわえると、アレックスは動揺しながらも反射的にライターを差し出して火をつける。
「いや、今は見えねぇけど・・・さっきは10歳かそこらのガキかと」
全身にアレックスの視線を感じて、いたたまれず私は小さくなった。
「アレックス、ちょっと待ってろ。リサ、こっちで休んどけよ」
アッシュはタバコの煙を吐き出すと、私に着いてくるように言う。
「あっ、うん・・・。アレックスさん、お邪魔してすみません」
返事をするのも忘れて唖然としたままのアレックスを置いて、アッシュが奥の部屋に案内してくれた。
そこは大きめのベッドがふたつ並ぶだけのシンプルな部屋だった。
「ほらこれ、着替え」
どこから持ってきたのか、アッシュが私に紙袋を渡す。
中を覗き込んでびっくりした。
「アッシュ、これ私の服・・・?いつ買ってきてくれたの?ありがとう」
「俺じゃなくてちょっと人に頼んで・・・いや、その話は今じゃなくていい。俺はまだアレックスと話すことがあるから寝てろよ」
うん、と頷くとアッシュはさっきの部屋に戻って行った。
一人きりになった部屋で、紙袋から服を取り出す。
レディースサイズのパーカー数枚に、細身のパンツが数本に、女物の下着まで。
「U・・・ゆ、にくろ?うにくろ?かな・・・」
見慣れぬブランドのタグがついたXSサイズの下着は、自分の身体にぴったりと合いそうだった。
実はこの二週間、ちゃんとした下着もつけずにアッシュの服を借りて過ごしていた。
コインランドリーに行く以外出歩くこともないからあんまり気にしていなかったけれど。