【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第9章 ふたつの心
夜が更け始めた頃、倉庫を出てアッシュの言うアジトへ向かった。
アッシュから離れないように、目立たないように、ひたすらそれだけを考えてアッシュに続いて早足で歩く。
途中、見るからにガラの悪そうな男の人達に鉢合わせそうになったけれど、アッシュは裏道まで全てを知り尽くしているようで危ない目には合わなかった。
廃墟のような建物の階段を登り、複雑な造りの廊下を通り抜けて扉を開けた。
部屋に入ると、奥でソファに座っていたダークブロンドの男の人が立ち上がった。
「アッシュ、思ったより早かったな。・・・・・・・・・!?」
アッシュの後ろにいた私に気付いて唖然としている。
「あー・・・、アレックス。もう帰ったかと思ってたぜ。他の奴らは?」
アッシュが珍しく後ろ頭をポリポリと掻きながら言った。
「み、皆バーやたまり場に行って、今は隣の部屋にコングとボーンズが寝てるだけだけど・・・」
「じゃあ丁度良かった。お前には先に言っておきたかったんだが、悪いけどこいつをしばらくここに置いて欲しい」
アッシュが私に視線をやりながら言った。
アレックスと呼ばれた男の人は明らかにぎょっとした形相で、必死で自分を落ち着かせようとしているようだった。
「置いて欲しいって、え?つまりリンクスに入るってことか?いくつだ?子どもにしか見えねぇが・・・」
アレックス、という名前には聞き覚えがあった。
確かアッシュがよく電話をしている相手だ。
気のせいかもしれないけど、アッシュよりも目付きが鋭い感じがして、少し怖かった。
「あ、あの・・・リサです、初めまして。一応アッシュと同い歳です」
私はアッシュに借りているパーカーのフードを脱いで、ぺこりとお辞儀をする。
フードの中に隠していた長い髪が、地面に向かってはらりと垂れた。